戦略・戦術の資料
戦略、戦術、戦闘の違いを理解しているだろうか?
ここでは戦略・戦術・戦闘について触れ、戦争を支える兵站について考えていく。
戦略とは
戦略とは戦いに勝つ為の長期的かつ大局的な視点での思考を意味する。戦闘が発生する前の段取りを含めて戦略であり、戦争開始から戦争集結までの目的等を指す。
よって、一つの戦場を対象にした計画ではなく、複数の戦場を跨いだ長期的なビジョンである。
戦略は思いつきで実行するものではなく、周到な計算によって実行される。
どれだけの戦闘を仮定し、どれだけの生産を行い、どれだけの人員を動員し、どのような手段で人員を確保し、どのように組織し、どのように権限を付与し、どのように移動し、どのように食料を用意し、どのように輸送するか。そしてどうやって戦争を集結させるのか。
複雑に絡み合った計画を抜けがなく、綿密に実行して評価し、修整していく事が戦略でる。
一般的に戦略を組み立てるには膨大な経験が必要であり、何も知らない個人が一から実行する事は難しい。
また、どれだけ完璧な戦略を立てても、強い信頼や権限を有していない限り、必ずどこかで人間の感情による綻びが発生し、計画の実行を遅延させる可能性を孕んでいる。
従って、戦略の策定には強い権力を有する老練な者の存在が不可欠である。通常、若い主人公がここで活躍する事は難しい。
戦術とは
戦術とは複数の戦闘が発生するような戦場におけるスケールを指す事が一般的である。いわゆる用兵であり、その戦場の指揮官レベルから見た計画が戦術である。
上から与えられた部下、武器、食料、時間を用いてどのように行動し、どのような効率的な結果を得るか。
戦略よりも更に具体的な計画が必要であり、部下や武器について相応の理解が必要である。
経験だけでなく、才能による閃きの重要性が上がり、若い主人公が活躍しやすい場でもある。
戦闘
実際に敵と衝突し、武器や道具によって殺し合いをする兵士のスケールである。経験や才能だけでなく、扱う武器の相性等が大きな影響力を持つ。
兵站(へいたん)
食料の輸送計画や人員の輸送計画、実行を意味する。いわゆる後方からの支援である。
物資の配給、備蓄の管理、武器の整備、衛生の維持、施設や設備の維持。
生活を維持する当たり前の事柄全てが兵站によって成され、戦争の遂行を可能としている。
特に物資の補給がなければ戦争の継続は難しく、後方から前線まで補給物資を届ける補給線の確保が重要であり、この補給線が絶たれた場合、前線が飢えたり武器がなくなり、戦争の継続が難しくなる。
後方からの輸送は船や馬車、鉄道、航空機など、手段によって効率が大きく変わる。このため、目的地に直線的に向かうだけでなく、補給線を効率良く維持しやすい進路を取る事が求められる。
兵站を無視した無謀な作戦はしばしば凄惨な結末へ繋がり、大日本帝国の牟田口中将によるインパール作戦はあまりにも有名である。
有能な軍人像を描くならば、戦闘だけでなく兵站に精通した人物を描く必要があるだろう。
3割の損害=全滅は根拠がない
ネットでよく見られる部隊の3割がやられた場合、撤退となるという基準。これはあまり正しいものではない。
士気が低い農民や雑兵で構成されている部隊の場合、一割の損害で逃げ出して前線が崩壊する事もあり、包囲殲滅を受けているような状態なら文字通り全滅するまで戦い続ける事もありうるだろう。
また組織がどれだけ複雑化されているか、によってもこの基準は大きく変わる。
この3割という数字は実は根拠がなく、数字だけが独り歩きしたものである。
歴史上では1%の損害で撤退をしたケースすらある。
この撤退基準というのは「どこまでが想定内か」によって大きく変わってくる。
初めから捨て駒のように消耗させるつもりならば30%の消耗率など気にしないだろうし、戦闘自体が想定外ならば1%でも撤退をする。部隊は目的によって投入されるものであり、撤退の基準はその目的を達成しうるか、という一点において決定される。
特に各々の戦闘能力の格差が大きいファンタジー世界において、この損害率や損耗率は全くアテにならず、部隊の構成や目的に応じて柔軟に描写する方が自然であると思われる。
ランチェスターの法則
机上で戦力差を分析する方法の一つにランチェスターの法則と呼ばれるものがある。剣など1対1の古典的な戦闘を想定したものを一次法則、銃撃戦などの近代の戦闘を想定したものを二次法則という。
この法則は1914年に出たもので、戦略差の理解を助けるものではあるが、数理モデルがそのまま全ての作品にあてはまるとは限らないので注意が必要である。
では、法則の中身を見ていこう。
第一法則(1対1の戦闘) 戦闘力=兵力✕武器効率
第二法則(複数を攻撃できる戦闘) 戦闘力=兵力の2乗✕武器効率
第一法則は単純に武器が相手の二倍強ければ、兵力が相手の半分でも互角に戦える事を意味している。
第二法則では兵力が2乗されており、数の暴力は我々が考えているより遥かに驚異的である、という事を意味している。
第一法則では100人は100人の数字にしか換算されないが、第二法則では100人は10000の戦闘力として計算される。
第二法則が適用されるような広くて複数の敵を攻撃できるようなシチュエーションの場合、A軍が50人、B軍が100人いたとしよう。互いに武器は1の効率とする。すると戦力差は次の通りになる。
A軍:50人の2乗・・・戦闘力2500
B軍:100人の2乗・・・戦闘力10000
一見すると50人対100人で2倍の戦力差にしか見えないが、実際の戦闘では4倍の戦力差が現れる。
これがランチェスターの第二法則である。
一見すると小さな戦力差が2乗されて遥かに大きな被害へ繋がる、というのがこの法則の主題である。
優れた戦略家はこのランチェスターの法則を熟知しており、人数差で負けないように人員の確保に奔走するのである。
軍隊における階級
軍隊において、指揮のレベルを大別して3つに分けるのが普通である。その3つとは将官、左官、尉官である。
将官とは長期的かつ単独での役割の遂行を期待された戦略的な部隊を指揮する士官であり、一般的には旅団以上の編成を指揮する。
大将、中将、少将、准将が将官に相当する事が多い。
続いて左官とは短期的に単独での作戦の遂行を期待された戦術的な部隊を指揮する士官であり、一般的には大隊や連隊を指揮する。
大佐、中佐、少佐、准佐が左官に相当する事が多い。
最後に尉官とは直接の戦闘を指揮する最も位の低い士官であり、中隊や小隊の指揮官を務める。
大尉、中尉、少尉が尉官に相当するのが普通である。
こうした軍の階級というものは歴史や国によって異なり、戦時中か平時かによっても組織図が大きく変わる。
創作において自由にいじりやすい部分である。
軍隊における編成
軍隊において、組織を階層構造にして編成単位で動くのが一般的である。これらは時代や国によって異なるが、その一例を次に示す。
班・・・4人~6人構成
分隊・・・8人~12人構成
小隊・・・30人~60人構成
中隊・・・60人~250人構成
大隊・・・300人~1000人構成
連隊・・・500人~5000人構成
旅団・・・2000人~5000人構成
師団・・・10000人~20000人構成
軍団・・・30000人以上
繰り返すが、これらは一般論の一つであり創作において自由にいじって良い部分である。
架空の魔法が出る世界などでは、それに合わせて編成が望ましい。
軍隊における兵科(へいか)
軍隊は様々な兵によって構成される。歩兵。弓兵、騎兵。こうした兵の種類を兵科と呼ぶ
一般に次のような兵科がある。
歩兵・・・その名の通りの歩兵
弓兵・・・弓を用いて戦う兵
騎兵・・・馬を用いて戦う兵
砲兵・・・砲撃支援を行う兵
工兵・・・陣地の構築や敵陣地の破壊などを実施する兵
輜重兵・・・兵站を担当する兵
憲兵・・・秩序の維持を担当する兵
衛生兵・・・医療や衛生維持を担当する兵
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